西麻布テルマー湯は3500円払っても、行って良い設備。
熟練サウナーでもゆっくり入れる満足感。高級感のあるサウナをお求めの貴方に。
日比谷線、六本木駅を降りる。
六本木ヒルズを見上げる。
デカい。そして、ビカビカだ。
確かここが開業したのは
2003年頃だったはずだ。
もう20年以上も経っている。
それなのになんだこの輝きは。

昔はヒルズ族は「勝ち組」とかよく言ってたよなぁ。
くすみ一つないガラスの摩天楼。
まるで時間が止まっているのか、
あるいは街が老化を拒絶しているのか。
圧倒的な光の暴力。痛いくらいだ。

……すごい街だぜ、六本木
思わず独り言が漏れる。
ここには、私のような枯れ始めた
40代が入り込む隙間なんて、
1ミリも無いんじゃないか。
そんな気分にさせられる。
六本木を抜けた先、西麻布にあるエジプト
行き交う人々もそうだ。
どこか浮足立っている。
高級車の重低音。飛び交う外国語。
すれ違いざまに香る甘い香水。
冴えないサラリーマンにとって、
ここは戦場であり、
完全なる「アウェー」だ。
私は光の塔(ヒルズ)から逃げるように、
西麻布の路地へと足を早めた。
目指すのは「テルマー湯 西麻布」。
歌舞伎町の喧騒を飲み込んできたあの
施設が、
このハイソな街にどんな顔をして
鎮座しているのか。
3,500円という安くない入館料を
支払う事を決意して、
「結界」の中へと滑り込んだ。

違和感を強めることには成功している。
沈黙の神殿
ゲートをくぐると、そこある奇妙な静寂。
エジプトの神殿を模したような意匠。
楽しそうに話合う店員さんの陽気さと、
荘厳な装飾のギャップ。
妙な疎外感。このサウナに
私しか客がいないかの様な錯覚。
受付を済ませるとまずは地下の
ロッカールームを目指す。
迷宮感。そして場違い感。
高級であればあるほどソワソワするのは悲しい性が。
地下にある暖簾を潜るとそこは
ロッカールームだ。

テルマー湯ってまじでロッカー広いよなぁ。
あと、綺麗で気持ちいい。
今日の私に館内着は必要ない。さっさと全裸になって、お風呂場を目指そう。
高級感のある浴場
まずは身を清める。 シャワーヘッドは
「ミラブル」。
西麻布の脂ぎった欲望を洗い流すには、このくらいの微細な泡が必要なのかもしれない。

当たり前のように高級シャワーヘッドなんだもんなぁ。
シャワー室でやたらと宣伝されいる
シャンプーがある。

いや、これ、いいぞ!
泡立ちがマイルド!うーん!
ギモッヂイイ!!!すげえ!
王子製薬ってシャンプー作ってるんか?

これはシャンプー界の革命やで!
サウナ室:思いのほか質実剛健
まずはメディテーションサウナへ。
中は暗い。 オートロウリュの音だけが、蒸気機関のように低く唸りを上げる。
静かだ。素晴らしい。熱波と静けさ。

これが欲しかったんだよなぁ。
汗が吹き出し、
思考が強制的に停止させられる。
まさに瞑想(メディテーション)

あれ、意外と硬派なサウナ、なのか!
次は高温サウナへ。
オートロウリュも元気なフツーのサウナ。
テレビがあって、カラカラ感強め。
昭和サウナ。
こちらのサウナは非常に大きくて、
混雑知らず。
ずらっと並んだ床の部分も
ものすごく清潔感がある。

いや、こっちのサウナもいいぞ?
こういうのもあるのかテルマー湯?
ロウリュイベントもこちらで行われる。
普通のサウナをしっかりとしたクオリティで置いてあるところがニクイ。
最後に塩サウナ。
熱湯注意とうるさいくらい書いてある
シャワー。
室内温度が高すぎて、
最初に60度近い熱湯が出る様だ。

鬼の様な設計ミス感。
嫌いじゃない。
塩はきめ細かくサラサラしている。
素晴らしい。
肌に塗り込むと染み込む染み込む。
塩から発せられる様にも感じる熱が、
カーッと体から汗を絞り取る。
東京で塩サウナってニュー椿くらいかな、
と思ってたら
ここにもあるんですね。びっくりしました。

いいじゃない!
水風呂:深さとは贅沢
そして、水風呂。 これが良かった。

ふ、深い、、、、
身長170cmのおじさんが、立ったまま首まで沈むことができる深さ。
深さは=贅沢。コレはサウナーの常識
水温計は見ない。
ただ、肌が「冷たい」と悲鳴を上げ、
同時に歓喜する感覚だけを信じる。
西麻布の地下深く、
私はただの「肉体」に戻っていく。
浅いタイプの水風呂もある。こちらはシングルのようだ!

いや、コレスゴイ!
2つともいいゾ!
5℃の冷蔵庫で見つけた満足感
さて、問題はここからだ。 ここは屋内施設。
当然、外気浴スペースはない。

しかたないよね。
サウナにとって「風」は調味料だ。
どんなにサウナと
水風呂があっても、
風がなければサウナは完成しない。
「……このサウナを選んだのは失敗か?」
サウナとは違う嫌な汗が出てくる。
ととのい難民になりかけた
私の目に飛び込んできたのは、
無機質なドア。
「クールルーム」。
中は設定温度5℃前後の、
巨大な冷蔵庫(ペンギンルーム)

これだっ!
しっかりと体を拭いたあと。
カラカラの状態になったおじさんが、
再び5℃の冷蔵庫へ戻る。
椅子の背もたれに、深く身を預ける。

んーー!イイッ!
肌に水分がないから、
気化熱で刺すような寒さがない。
5℃の冷気が、火照った肌の表面だけを
優しく撫でていく。
それはもはや、空調で管理された
「理想的な秋の夜長」だった。
風のゆらぎすら感じる(気のせいかもしれない)。
西麻布の地下で、
私は人工の風に包まれて確信する。
これは妥協ではない。
「室内外気浴」という圧倒的矛盾。
圧倒的満足感!

かなり考えられた設備だ!
最大の後悔
最高の体験でご満悦の私だったのだが、
「1時間」で退館してしまった。

夜9時回ってたから、早く帰りたくて。
エレベーターの中で、私は頭を抱えた。
3,500円払って、1時間。分単価、約58円。
遠くの方で「ロウリュサービス始めまーす!」の声が聞こえる。
やんわり聞こえるヌジャベス。Lo-fi Hiphopが身に沁みる瞬間があるなんて。
牛丼屋で特盛を頼んで、肉だけ食って米を残して帰るようなものだ。
この施設の真価は、サウナの後に休憩スペースでダラダラ過ごす贅沢があるはずなのに。
次は絶対に、3時間以上は居座る。
休憩スペースで漫画を読み、泥のように眠るんだ。

悔しいんですけどー!
エピローグ|不要だったクールダウン
帰りは、乃木坂方面へ歩く。
千代田線を使って帰ろう。
時刻は9時を過ぎた、人通りは少ない。
乃木坂へ抜ける道は、「青山霊園」の脇を通るルートだ。
街灯が少ない。 急に音が少なくなる。
道路ごとノイズキャンセリングがかかったような錯覚。

な、なんだこれ!
さっきまでの西麻布の煌びやかさが嘘のようだ。
看板と街灯が異常に少ない。
木々が風でざわめく音だけが聞こえる。

六本木との落差がすごいな。。。
……寒い。 いや、気温だけの話ではない。
背筋が、ゾクゾクする。
ふと、背後に気配を感じる(気がする)。
闇の中から、何かが視線を感じる(気がする)。
「ヒィッ……!」
冷や汗が出る。鳥肌が止まらない。
全身が、芯から冷えていく。
駅の明かりが見えた頃、私は震えながら気づいた。

クールルームはここにもあったか!
ってなんでやねん!ギャフン!
西麻布の夜は、懐にも、精神的にも、
意外と厳しかった。
さすがのサウナ。
次は昼間に来よう。
